■次元が違いすぎる新テストコース
ビックリだぜ!
ウワサの"トヨタ・愛知ニュル化計画"をこの目で見てきたが、まさかココまで本気も超本気だったとは!
正式名称は、「トヨタテクニカルセンターシモヤマ」。トヨタの本拠地がある愛知県豊田市から車で約30分、12kmしか離れていない、岡崎市にまたがる山間部に巨大研究施設をつくり、その中に超過酷で知られているドイツのサーキット場「ニュルブルクリンク(以下、ニュル)」に似た高低差約75m、カーブ山盛りのテストコースを建設! 今年4月から一部が稼働し、そのすべてが動きだすのは2023年から。
確かにニュルは速度無制限のアウトバーンと並び、ドイツメーカーのクルマ造りを根本から支える虎の穴だ。日頃過酷なステージで鍛えているからこそメルセデス・ベンツ、BMW、ポルシェはスゴいのだ。
だからこそ「日本にもニュルを!」という声は90年代からあり、トヨタは北海道の士別(しべつ)に、ホンダも北海道の鷹栖(たかす)にテストコースをつくったが、それはニュルに似ているが、どこかヌルい日本の道だった。
しかし今やAIや自動運転でクルマ造りが根本的に変わると言われている時代だ。いまさらニッポンにガチのニュルをつくってどうすんの? と、オザワは思っていた。ところがだ。「トヨタテクニカルセンターシモヤマ」の取材会でオザワはたまげた。冒頭のプレゼンで豊田章男社長が動画メッセージでこうカマしてきたからだ!
「なぜこういう道が必要か。もっといいクルマを造るからです。道がクルマを造る。厳しい道をつくり、厳しい道を安全に走ることができるクルマ(を造る)、これこそがわれわれがニュルでずっとやってきたことなんです。これからのトヨタのクルマの造り方に、ぜひご期待いただきたい」
要するに、この愛知ニュル化計画は社長肝煎(きもい)りの大プロジェクト。だとすると、いったいいつ頃からこのプロジェクトは動きだしたのか。そこで、シモヤマの開発に深く関わっている走りの匠(たくみ)、トヨタの凄腕技能養成部の金森信明氏をねっちょり直撃してみた!
■トヨタはニュルを再現できたのか?
――事前説明を聞いて驚きました。シモヤマ計画は十数年前に始まったらしいですね。しかし当時はまだ章男さんは社長じゃないスよね?
金森 いやいや、当然のことながら(豊田章男)社長は関わっています。当時は確か副社長でした。
――ということは、この愛知ニュル化計画は副社長時代からの宿便みたいなプラン?
金森 プロジェクト開始からかなり時間はたっていますね。
――章男社長の頭には、ドイツメーカーが開発中にちょこちょこニュルに行っては素早く猛烈に鍛える、あのイメージがあったんでしょうか。
金森 あったと思います。トヨタにはテストコースがいくつもありますが、あまりクルマに入る入力(加速Gや減速G)が強くない。そこで、「本当にいいクルマを造るために、しっかり入力が入るコースをつくろう」という話が社長からあり、2005年ぐらいにプロジェクトが動きだしました。
――14年も前じゃないですか! 計画は最初からうまく進んだ?
金森 土地の問題などもあったので、企画が始まった頃は上司にも一切報告するなと。
――それは「トヨタが土地を買うぞ!」って話が広まると事前に土地買って、値段釣り上げる輩(やから)が出ちゃうから?
金森 実は用地買収はいったんボツになっているんです。地上げに遭って......。
――テストコースをつくるって大変なんスね!
金森 当時、総工費3000億円は"今世紀最大の本州の道路工事"と言われてて。
――ところで、ニュルブルクリンク北コースは全長20km超、アップダウン300m、コーナー数172のトンデモコースです。死亡事故も多いス。
金森 ええ。
――ズバリ、本当にトヨタはニュルに匹敵するリスキーなコースをつくれた?
金森 新テストコースは、全長約5.3kmで、高低差は約75m。一方、ニュルは路面の摩擦係数が低く、滑りやすい割に時速200キロ以上で走れる。エスケープゾーン(安全性確保を目的としてコース両脇に設けられたスペース)も少なく、さすがにそれを日本で実現するのは難しい。
――ニュルは自己責任の国ドイツでも危険すぎて今つくるのは無理だと言われてます。では新テストコースは、どのヘンがニュルに近い?
金森 後ほど走っていただくとわかりますが、ブラインド(先が見えない)コーナーはけっこうありますし、アップダウンもかなりキツい。本気で走ったらニュル並みの車両入力Gは出ると思いますが。
――危なそうスね(笑)。
金森 当初は「危ない!」と社内でもだいぶ反対されました。一時はつまらない道になりかけたくらいで(笑)。
――それを引き戻したのは、やっぱし"アキオ"パワー?