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イラン革命防衛隊がミサイル攻撃を行ったイラクの様子

年始早々、中東情勢が風雲急を告げている。

きっかけは、アメリカのドナルド・トランプ大統領が決行した空爆でイラン革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官が死亡したことだ。自国の英雄が殺害されたことを受けて、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師がアメリカへの報復を宣言し、服喪が明けた1月8日には米軍および有志連合軍が駐留するイラクの空軍基地2カ所に十数発の弾道ミサイルが発射された。

応酬の激化が予想されたが、アメリカ人の犠牲者が出なかったこともあり、トランプ大統領は新たな金融制裁を科すことで圧力を強めるものの、軍事行動は避ける意向を示した。また、イランのイスラム教シーア派主導者も民兵に自制を求めており、当面は全面戦争という最悪の事態は避けられる見通しだ。

ただし、すでに両国は戦争状態にあるといっても過言ではなく、今はそれが部分戦にとどまっているだけだ。イランはアメリカとの間で火種となっている核開発を今後も進める方針であり、いつ全面戦争に発展してもおかしくない状況には違いない。また、イラン情勢をめぐって市場は乱高下を続けており、この状況は当面続くと思われる。

イランの民兵組織には正規軍と革命防衛隊があり、革命防衛隊も政府のガバナンスのもとにある。しかし、建前上は正規軍ではないため、革命防衛隊との対立は国vs.国ではなく国vs.テロリストという形になる。また、革命防衛隊はシーア派の武装組織ヒズボラなどを通じて、イラン、イラク、シリア、レバノンなど国境をまたいで活動している。この地域の人々はもともと“砂漠の民”であり、国境という概念がないに等しい。そして、武装組織が政治と結びつき、正規軍同様の活動を行い、地域を支配しているわけだ。

問題は、原理主義に近い思想の持ち主がメンバーになっていることだ。ヒズボラはイスラム国(IS)に比べれば穏健といわれるが、武力を背景とした過激派組織であることは間違いない。そして、そのような組織と組織が時には対立し、時には同調することで複雑な階層を生み出している。イスラエル・ユダヤ・アメリカという共通の敵に対しては手を結ぶケースが多いが、それも金次第で転ぶ場合も多く、完全な同盟関係は見られないのが実情だ。

米国と中東の関係がこじれる歴史的理由

もともとイランとイラクの一部は同一国家であり、アラブのスンニ派国家との間の緩衝地域でもあった。そして、イラクはサダム・フセイン大統領により少数派のスンニ派が多数派のシーア派を治めてきたという歴史がある。かつてのイラン・イラク戦争でアメリカはイラクを支援し、いわばフセインはアメリカの傀儡的な立場でもあったわけだ。
 しかし、その後フセインは地域的関係の深いフランスと手を結び、フランスの石油メジャー・トタルと武器バーターによる石油決済を始めようとした。これがアメリカの逆鱗に触れ、アメリカはイラク戦争を行い、フセインを処刑するに至ったわけだ。その後、イラクにはシーア派の暫定政権が置かれ、同じシーア派のイランとの関係を深めたことで、結果的にアラブ諸国との対立が強まった。
 また、アラブの国家群は特定の部族による支配構造や強い権力政治のもとで安定した統治が行われていたが、2011年の「アラブの春」により民主化が進み、それらの体制が瓦解した。その結果、シーア派勢力の拡大とISなどのより過激な勢力の拡大を招いたわけだ。

アメリカはバラク・オバマ政権下ではイランとの間に核合意を締結するなど融和政策をとっていたが、それは中東に軍事的空白をつくり、ISなどの台頭を許しただけであった。そのため、トランプ政権は再転換し、それが今回の戦争の火種となっているのである。
イランにしても、中国にしても、北朝鮮にしても、融和政策をとったところで、裏で核兵器やミサイルの開発が進み、軍備拡張などのリスクが増大する。南シナ海や北朝鮮の現状を見ても、それは歴史が証明しているといえるだろう。イランの核開発は北朝鮮との連携によるものであり、その技術の一部は中国などから流れているとされる。

戦争を是認するわけではないが、戦争というのは混乱を抑えるための手段のひとつであり、問題解決のための最終手段であることも事実だ。問題はその規模であり、アメリカとイランのこれまでの関係に鑑みると、部分戦で終わったとしても中長期的な問題解決にはならないだろう。また、今回の事態で、アメリカは中東だけでなく中国とロシアとの対立も深まるものと予想される。2020年は、米・中ロ間の新冷戦が深化する年になるのかもしれない。