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防衛省が来年度防衛費で開発に着手する将来戦闘機の初年度要求額が、200億円に上ることがわかった。防衛省関係者が明らかにした。8月の概算要求では、事項要求として金額を明らかにしていなかった。

来年度予算の政府原案が固まる12月には要求額を正式に決め、将来戦闘機を純国産とするか、国際共同開発とするか方向性を定めるが、日本独自で戦闘機を開発するのは技術的に難しく、現状では国際共同開発となる公算が大きい。





F35購入にともなう「大問題」

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将来戦闘機は、現在日本が92機保有する日米共同開発のF2戦闘機の後継機となる。F2の退役は2030年ごろから始まるため、防衛省は一昨年から将来戦闘機の検討を始めていた。

 ところが昨年12月、安倍晋三内閣は突然、F35戦闘機の追加購入を閣議了解した。将来戦闘機の前にF35が割り込んだ形だ。

 閣議了解は「F35Aの取得数42機を147機とし、平成31年度以降の取得は、完成機輸入によることとする」との内容で、追加購入する105機のF35を、F15戦闘機のうち古いタイプの99機と入れ換えることにした。

 退役時期が決まっていないF15を強制的に退役させてでもF35を追加購入するのは、トランプ米大統領が主張する「バイ・アメリカン(米国製を買え)」との要求に応えるためだ。まともな検証もなく導入を閣議決定した、地対空迎撃ミサイル「イージス・アショア」と合わせれば、約2兆円もの米国製武器の「爆買い」になる。

 米政府にカネを渡すため、あえて「完成機輸入による」との一文を入れたことにより、防衛省が三菱重工業などに1870億円の国費を投じて造らせたF35の組立ラインは、完全に停止することになった。

 ここに大きな問題がある。

 戦闘機であれ、旅客機であれ、航空機の生産をやめれば航空機製造技術は途絶えてしまう。国産旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」あらため「スペースジェット」の開発が難航しているのは、戦後に連合国軍総司令部(GHQ)が航空機の研究開発を禁じたことと、航空機開発が解禁された後に国産旅客機として誕生した「YS11」以降、旅客機を開発してこなかったことに遠因がある。

 F35追加導入の閣議了解は、国内から戦闘機の製造技術を消滅させ、戦闘機製造によって獲得してきた航空機全般の製造技術をいずれ喪失させることにもつながる。

 あせりを強めた防衛省は、国産か、国際共同開発かの方向性も定まらないまま、来年度予算の概算要求に将来戦闘機の開発費を盛り込むことになったのである。

 防衛省関係者は「将来戦闘機の調達機数は決まっていないが、開発、生産にかける総費用は1兆円にはなるだろう。初年度の開発費として200億円は必要だ」と話す。

 国内の防衛産業が目指すのは、もちろん純国産戦闘機、「令和のゼロ戦」だ。

実戦経験がないので…
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国内で唯一、戦闘機を製造する能力がある三菱重工業は防衛省からの発注を受けて、最新の戦闘機技術を盛り込んだ先進技術実証機「X2」を製造し、16年に初飛行させた。「X2」は国産エンジンの推力が小さいことから小型機となり、戦闘機への転用はできないが、レーダーに映りにくいステルス機の国産化は可能であることを文字通り、実証した。

 一方、エンジンメーカーのIHIは「X2」にエンジンを提供した後、推力15トンという戦闘機として十分な能力のエンジンを開発、昨年、防衛装備庁に納入した。また三菱電機は世界でもトップレベルのレーダーを製造する技術を持っている。

 やっかいなのは、こうした技術を単純に組み合わせるだけでは戦闘機として成立しないという点にある。戦闘機の心臓部にあたるソフトウェアや武器システムは、実戦経験のある国でなければ必要十分なものは開発できないとされている。

 その点は防衛省も承知しており、昨年、米、英両政府に既存の戦闘機をたたき台にした将来戦闘機について提案を求めた。その結果、米ロッキード・マーチン、米ボーイング、英BAEシステムズの3社から提案があった。

 このうち米ロッキード・マーチン社は、世界初のステルス戦闘機「F22」の機体に、最新のステルス戦闘機「F35」の電子機器を搭載するハイブリッド戦闘機を提案した。

 エンジンが双発で運動性能に優れるF22の機体とF35の最新電子機器を組み合わせれば「世界最強の戦闘機になる」というのだ。

 F22はもともと航空自衛隊が次期戦闘機として渇望していたが、日本への技術流出を恐れた米議会が輸出禁止を決議し、防衛省はやむなくF35を導入したいきさつがある。米ロッキード・マーチン社は「ハイブリッド戦闘機はF22とは異なるので米議会の禁止決議には触れない」と防衛省側に説明している。

 だが、防衛省に提示したハイブリッド機の価格は、なんと1機220億円。本年度のF35の調達価格が1機113億円なのと比べて、いかに高額かわかる。防衛省が難色を示したところ、一週間も経たないうちに一部性能を落として190億円代に値下げし、「本気度」をアピールしてきた。

 米ボーイング社の提案は既存のF15の近代化改修、またBAEシステムズは航空自衛隊の次期戦闘機選定の際、F35と競って敗れた戦闘機「ユーロファイター」の提案だったため、ともに新味はなかった。

吹っかけてくるアメリカ
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防衛省で現在、将来戦闘機の候補として有力視されているのは、前述の通りF22とF35のハイブリッド戦闘機と、BAEシステムズ社が国際共同開発を目指すユーロファイター後継機の「テンペスト」の2機種となっている。

 また、米国でF35の共同開発を担った米ノースロップ・グラマン社が防衛省に協力を申し出ている。同社は米政府への戦闘機売り込みをめぐり、F22と競って敗れたステルス戦闘機「YF23」を開発した実績があり、戦闘機メーカーとしての実力は証明されている。

 自衛隊と米軍との相互運用性および米政府との良好な関係の維持を考えれば、米国メーカーと共同開発するのが現実的な選択肢であるのは間違いない。

 ただ、防衛省には米国との間での戦闘機開発をめぐって煮え湯を飲まされた過去がある。日米でF2を共同開発した際、米国は提供を約束した飛行制御プログラムを開示せず、日本側の開発費が高騰する一因となった。

 その一方で、日本の先進技術による炭素複合材の製造技術が米国に流れ、米国がF22やF35に転用する「ちゃっかり」ぶりも明らかになった。

 米国との取引には、「現代ビジネス」でも繰り返し問題点を指摘している通り、米政府の特殊な武器売却方式である対外有償軍事援助(FMS)のリスクが付きまとう。

 FMSは(1)契約価格、納期は見積もりであり、米政府はこれらに拘束されない、(2)代金は前払い、(3)米政府は自国の国益により一方的に契約解除できる、という米政府に有利な殿様商売である。

 戦闘機ではないが、滞空型無人機「グローバルホーク」の場合、防衛省は当初3機510億円で米政府と契約したものの、あとになって米側の都合で119億円(23%)も高い629億円への値上げを吹っかけられた。

 防衛省には、武器の価格が15%上昇したら見直しを検討、25%の場合は購入中止を検討するというルールがある。省内には「グローバルホークは断念すべきだ」との声が強かったが、トランプ政権への配慮を最優先する首相官邸の意向を忖度して、購入が決まった。
究極の二者択一
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防衛省幹部は「戦闘機を米国と共同開発する場合、最初から想定できるリスクをリストアップして対策を立てる必要がある」というが、それでも万全を期すのは難しい。

 例えば共同開発の分担割合をめぐり、米政府の都合で途中から米側の開発割合を増やし、日本側の開発割合を減らすといった無茶な要求が突きつけられたとしてもFMSでは契約違反には当たらず、まったく問題にならないからだ。

 防衛省が開発資金をつぎ込んだ後に上記のような問題が起きたとしても、途中で共同開発を降りるのは難しい。配備先が決まっていないにもかかわらず、米政府の求めに応じて1399億円の取得費を先払いしたことから、導入を進めるほかなくなった「イージス・アショア」のような例もある。

 そう考えると、防衛省の立場を理解し、国益も意識する国内の防衛産業が純国産戦闘機を開発するのが好ましいのは間違いない。だが、前述した通り、技術的には難しい。

 防衛省は米政府の理不尽な要求に唯々諾々と従う国際共同開発か、将来戦闘機の完成が大幅にずれ込むというリスクを負いかねない純国産戦闘機か、究極の二者択一を迫られることになる。